ジストニアに筋トレはNG? ― 筋トーヌスを緩め、小脳を整える“本当のトレーニング”とは

 

「ジストニアでも筋トレをしていいのかな?」
「またこの筋肉が弱いから思うように動かないのでは?」

このような疑問を感じたことありませんか?

 

リハビリや健康維持のために体を動かすことは大切ですが、ジストニアの方にとって“筋トレ”は注意が必要な行為です。

 

一見すると、筋肉を鍛えれば体がしっかりして良くなりそうに思えます。

実際に私のところにお越しいただいた方の中にも、指の筋肉が弱いと言われて、指先をトレーニングされている方などいました。またイップスも同じようにトレーニングのしすぎや厳しい練習によって、コントロールが効かない誤作動を形成されているケースもあるように感じます。

 

なので、ジストニアの場合、筋トレが症状を強めてしまうリスクがあります。

 

なぜなら、ジストニアの方はすでに「筋トーヌス(筋肉の無意識の張り)」が高い状態で、さらに筋トレによって緊張のパターンを脳が“強化”してしまうことが考えられるためです。

 

加えて、筋トレによる過度な力みは、運動の調整を担う小脳の働きにも影響を与え、「動きがぎこちなくなる」「力の抜き方がわからない」という悪循環を生みます。

 

そこでこの記事では、そんなジストニアの方が陥りやすい「筋トレの落とし穴」と、その代わりに取り入れてほしい「筋トーヌスを緩めるリハビリ」と「小脳を整えるトレーニング」について解説します。

 

脳と神経の仕組みから正しく理解し、「力を入れるリハビリ」ではなく「力を抜くリハビリ」へと切り替えるようにしましょう。

 

それが、ジストニアの改善へとつながります。

なぜジストニアの人に筋トレは向かないのか

一般的には、筋トレは健康維持や代謝の向上に役立つといわれていますが、ジストニアの場合は少し事情が異なります。

 

すでに体が「力を入れすぎるクセ」を持っている状態で筋トレを行うと、その「力みのパターン」を脳がさらに強化してしまうことが考えられるためです。

 

具体的には、筋トレによって「力を入れる」という運動信号が繰り返されることで、脳がそれを「正しい動き」として覚え込み、常に筋肉を緊張させている状態でいなければと、誤った学習をしてしまいます。

 

その結果、

さらに
・動きが硬くなる

・力が抜けなくなる

・コントロールが効かない

といったように症状が悪化しやすくなる悪循環に陥ります。

 

ジストニアの方が「鍛えているのに動きが重くなった」「余計に疲れるようになった」と感じるのは、筋肉が悪いのではなく、脳が“誤った緊張の学習”をしているためです。

 

●筋トーヌスとは何か

では、なぜこのような誤作動が起きるのでしょうか。
その背景には

「筋トーヌス」

という神経の働きがあります。

筋トーヌスとは、筋肉の“無意識の張り”のことを指します。

 

私たちは立っているときや座っているとき、意識していなくても姿勢を保つために筋肉が少しだけ緊張しています。

 

この軽い張り具合が筋トーヌスです。

 

健康な人では、筋トーヌスがちょうど良いバランスで保たれていますが、ジストニアの人は、脳や神経の誤作動によってこの張りが常に高くなっています。

 

つまり、無意識のうちに「力を抜けない状態」になっており、筋トレによってさらに刺激を加えることで、この高まった筋トーヌスがより固定化されます

 

●小脳の働きも乱れる

もう一つ重要なのが、小脳の調整機能です。

小脳は「動作のバランス」「リズム」「タイミング」「力加減」など、私たちが体を滑らかに動かすための微妙な調整を担っています。

 

もう少し専門的にお伝えすると、小脳は運動の調節や熟練(モーターラーニング)に関わる部位です。

たとえば、大脳から「前に歩こう」という指令が出されたとき、小脳は「まっすぐに立てているか」「足の運びのバランスは取れているか」などを常に確認しながら、体の各部の筋肉の緊張を微調整します。

 

同時に、腕を振るタイミングを整えたり、左右の動きを協調させたりするなど、目的の動作を全身でスムーズに行えるよう指示を出しているのも小脳の役割です。

 

また、運動の繰り返しを通じて「動き方」を記憶し、その精度を高める働きも担っています。

言い換えれば、小脳は「動きの再現性を作る中枢」といえます。

 

この点については、「小脳は運動の正確性やタイミングを高めるために、感覚情報と運動指令を統合し、出力を精緻化する役割を果たす」と、Wikipedia(Cerebellum – Wikipedia)でも解説されています。

 

しかし、筋トレのように「力を入れる動作」を繰り返すことで、小脳は「微細な調整」や「リラックスして動く感覚」を使う機会を失っていくことがあります。

 

すると、小脳の運動記憶が“力を入れるパターン”に偏ってしまうのです。

 

その結果、「うまく動かせない」→「もっと力を入れる」→「さらに誤作動が強まる」という悪循環が起こり、動きのぎこちなさやコントロールの難しさが増していきます。

 

このように、筋トレによって小脳の精密な調整能力が乱れると、本来「力を抜くことで生まれる滑らかな動作」まで失われてしまうのです。

 

一次刺激と二次刺激を組み合わせたリハビリ法(筋トーヌスを緩める)

ジストニアでは、筋トーヌス(筋肉の張り)や小脳の働きが不安定になり、体がうまく力を抜けない状態になっています。

 

この状態を改善するために有効なのが、一次刺激(身体からの信号)と二次刺激(意識からの信号)を組み合わせるリハビリ法です。

 

一次刺激とは ― 無意識の緊張を“意識に引き上げる”トリガー

一次刺激とは、身体の感覚器官(触覚・深部感覚など)を通じて、脳へ情報を送る刺激のことです。

 

この刺激は、ジストニアの根本にある「無意識の緊張」を「意識に引き上げる」きっかけになります。

 

たとえば、

皮膚を軽くなでる

関節をやさしく動かす

筋肉をわずかに伸ばす

指先にリズムを与える

といった動作を通じて、「今、自分の体はどこが緊張しているのか」「どんな感覚が起きているのか」を感じ取ります。

 

神経科学的に見ると、一次刺激は神経の発火(ニューロンの活動)を引き起こすトリガーでもあります。

 

感覚受容器(メカノレセプター)が刺激を受けると、電気信号としてニューロンが発火し、脳へと情報が伝わります。

 

このとき、刺激の強さや種類に応じて、発火の頻度(発火率)が変化します。

 

つまり、一次刺激によって「どの部位に、どの程度の緊張があるか」という情報が、脳に明確に“見える化”されるわけです。

 

重要なのは、この一次刺激が「力を抜くための準備段階」になるということです。

 

いきなりリラックスしようとしても、脳は「今どこが緊張しているか」を認識していなければ、どこを緩めればいいのか判断できません。

 

一次刺激は、その「気づきのスイッチ」を入れる役割を持っています。

●二次刺激とは ― 受け取った情報を“書き換える”プロセス

二次刺激とは、呼吸や体を刺激することで、一次刺激で得た身体の情報を落ち着かせ、書き換えていく「調整刺激」になります。

 

たとえば、

・ゆっくりと息を吐く

・呼吸に合わせて軽くタッピングする

そして一次刺激で感じた緊張の感覚が抜けてくるか、ちゃんと意識をしておきます。

 

これらの行為は、副交感神経を優位にし、一次刺激で意識化された“緊張のパターン”を、リラックスした状態へ再学習させていきます。

 

脳は感情や運動だけでなく、「安心」や「脱力」も学習によって形成されています。

 

二次刺激では、呼吸やソフトな刺激を通してこの学習ループを再構築し、本来の筋トーヌスの緊張具合にもとに戻すように感覚刺激を使って定着させていきます。

 

●一次刺激と二次刺激の“連動”が生む再教育効果

この部分を簡単にまとめると、

 

一次刺激で「緊張を自覚」し、二次刺激で「その緊張を穏やかに書き換える」

 

となります。

 

この2つを同時に行うことで、脳は「緊張」→「脱力」→「安定」という一連の流れを再び学び直します。

 

この「緊張から緩みへの切り替え体験」こそが、神経の過敏な反応を落ち着かせ、筋トーヌスを自然に緩めていく鍵です。

 

そのためご自身の緊張していると思われる部位を特定して、一箇所一箇所丁寧にケアしてみてください。

 

●具体的な調整法の例(実践ステップ)

体に軽い刺激を与える(一次刺激)

肩、腕、手首などを軽く揺らしたり、関節を小さく回す。

このとき、「今どこが固いか」「どの動きで強張るか」に意識を向ける。硬いと感じた方向で止める。

 

呼吸を整える(二次刺激)
深呼吸を一回行い、息を吐ききったタイミングで、刺激を加える。

または、一次刺激を引き出したまま、深呼吸を繰り返し行う。

 

緩む感覚をしっかり言葉で確認する
「少しずつ柔らかくなってきた」
「関節の緩みが出てきた」
と、内的な言葉を添える。

意識的な“声かけ”によって客観的に状態を観察し、緩んでいる感覚もしっかり、意識で感じるようにしましょう。

 

緩んだと思ったら確認する
数十秒〜数分間行い、その角度の緊張が緩んでいるか確認する。

あらゆる角度に動かした後に、もう一度刺激を加えた方向に動かして、緊張が抜けているかみる。

まだ抜けていなければ、上記の手順を繰り返し行う。

もし緊張が抜けていれば、また角度を変えて緊張がある角度、部位を特定し上記の手順を繰り返します。

小脳のリハビリで“運動の協調性”を取り戻す

小脳は、体の動きを滑らかに整える「調整役」です。

 

バランス(姿勢の維持)・タイミング(動きのリズム)・協調性(筋肉同士の連動)を統合的に制御し、大脳から出された「動け」という指令がスムーズに実行されるように微調整を行っています。

 

このとき、小脳は関節の位置や筋肉の張り、重心の変化などの感覚情報を常に受け取り、「予測」と「修正」をリアルタイムで繰り返すことで、動作の精度を保っています。

 

ジストニアではこの小脳の調整機能も乱れていることが考えられます。

 

なので小脳のリハビリでは、「滑らかさやリズム」を取り戻すことを目的に、これからお伝えするリハビリを行ってみてください。

 

今回は4つの方法をお伝えしていきます。

小脳を整えるリハビリの具体例

① 回内・回外運動(前腕のひねり)

肘を軽く曲げ、手のひらを「上→下→上」とゆっくり交互に回します。

はじめはできるだけ早く動かすようにして観察します。

 

どちらかの手が遅れてきたり、手の返りが中途半端になったりと動きが乱れるかを把握しましょう。

 

把握できたら一度深呼吸をして、丹田のあたりを一度軽くポンっと叩きます。

 

そしたら今度は、先ほどよりも速さを意識するのではなく、リズムと正確に反復できることを意識して30秒〜1分ほど行います。

 

この時になるべく力を抜いて、深呼吸を行いながらやりましょう。

 

途中で動きが止まったり、力が入ったと感じたら深呼吸をした後に、丹田のあたりを一度軽くポンっと叩き整えます。

 

💡ポイント
調整のときは、速さよりもリズムとリラックス。
「ゆっくり・一定のテンポ」で行うことで、小脳が再び“リズムの指揮者”として働き始めます。

 

② ピアノムーブメント(指の協調運動)

まずは両手を前に出して、指先を一本ずつ折って握るような動きをします。

ピアノを弾くように、動かします。

 

この動きをなるべく速く、両手一緒に行い、状態を観察しましょう。

 

そこで指を同時に握ってしまう部分や、ぎこちなく感じるところを把握できたら、今度は調整していきます。

 

速く行うのではなく、リズム良く滑らかに動かすことを意識して、ちゃんと指が一本一本バラバラに動かすようにしましょう。

 

これも30秒〜1分ほど行うなかで、力が入ってくる感覚、ぎこちなさを感じた際は、一度止めて、深呼吸をしたあとに、丹田を一度叩く刺激を入れて再開します。

慣れてきたら小指から握り始めるようにして、刺激のパターンを変えてみてください。

 

💡ポイント
速く動かすよりも、“指をスムーズに切り替える”感覚を大切にします。
途中で止まりそうになったら、深呼吸と丹田の刺激を入れて再開しましょう。

 

③ 片足立ち・つぎ足歩行

姿勢のバランス感覚を司る小脳に刺激を加えるリハビリ方法です。

 

片足立ちを10秒〜30秒キープします。

 

不安定なポジションを作るので安全な場所で行うようにしましょう。

 

そして片足立が難しい方は、足を前後に一列に並べて歩く“つぎ足歩行”を行いましょう。

 

まずは何秒キープできるか、左と右、どちらにバランスを崩しやすいのか把握しましょう。つぎ足方向であれば、どれくらい歩けるのか(距離)、左右どちらにバランスを崩しやすいのかを把握しましょう。

 

把握できたら、深呼吸をしながらバランスを崩して足をついてもいいので、30秒〜1分続けるようにしてみてください。

 

バランスを崩してしまったら、足をついたり状態を整えた上で深呼吸をして丹田を一度ポンっと叩き、再開します。

 

そうするとだんだんとバランスをとることに慣れてきます。

 

始めたころよりバランスが取れるようになってきた場合は、今度は目を閉じるなどして、より小脳が活性化される状態を行うと、より小脳が刺激されますので、強度もご自身にあったもので調整しながら行ってみてください。

 

💡ポイント
バランスを崩したらダメだと、自分にプレッシャーをかけるのではなく、ゲーム感覚で行うようにしましょう。
小さな揺れを感じ取りながらも「力を入れずに自然とキープできる」感覚を探しながら行うと、小脳の再教育になります。

 

④ VOR(前庭動眼反射)トレーニング

頭と目の協調を整える練習です。

頸部ジストニアの方などは、無理に動かすと痛みが出たりする場合があると思うので、痛みのでない無理のない範囲で行うか、違う小脳のリハビリを行うようにしましょう。

左手を正面に出して親指を立てて、グッドポーズのようなかたちにします。

 

そしたら左手の親指の先の一点を見つめながら、頭を「正面→左→正面→左」と一定の方向に振るようにしましょう。

 

(※気持ち悪くなったり、めまいを感じるかたは無理にしないでください。)

 

この時に指から目が離れてしまってないか、首の動きがぎこちなくないか観察します。

 

また左手を前に出した時は、正面→左→正面となる動きで、右手を出した時は、正面→右→正面となります。

 

左右差があるか観察しましょう。

 

行った時の状態を把握できたら、深呼吸を行いながら先ほどよりもゆっくりとしたスピードでいいので、指から目を離さず30秒〜1分ほど正確に行ってみてください。

 

そしてもし、目が離れた、首の動きがぎこちないと感じた際は、深呼吸をして一度丹田をポンっと叩いてから再開します。

 

これを終えたら、もう一度最初に行ったくらいのスピードでやってみて、先ほどよりも正確性が上がっていれば小脳の働きが整ってきています。

 

💡ポイント
目線がぶれずに保てる範囲で行うことです。
この“視線の安定”が、小脳と前庭系の連携を回復させる鍵になります。

●リハビリを行う際の心構え

これらのリハビリを行う際は「うまくやる」のも大事ですが自分の体の感覚を「感じ取る」ようにしましょう。

小脳は“感覚と動作のつながり”を学習する場所です。

上手に動かそうとするより、「どんな感覚が起きているか」を観察することが再教育になります。

 

また反復的に短時間・高頻度で行うようにしましょう。

1回10分でもここまでお伝えした「筋トーヌスのリハビリ」と「小脳のリハビリ」を毎日続ける方が、週1回長時間行うよりも効果的です。

 

小脳は“反復”によって新しいパターンを覚えます。

 

ですが疲労やリラックスできない状態で行うのは避けましょう。

 

今回の目的は、「力を抜ける状態」へと脳の働きを切り替えることです。

 

なので疲れを感じり、やっているとかえって緊張してくるのであれば、やめて自分の状態と相談しながら行うようにしてください。

 

【まとめ】“力を入れる”ではなく、“力を抜く”ことを学ぶリハビリへ

いかがでしたでしょうか。

最後にここまので内容をまとめていきます。

 

ジストニアの改善を目指すうえで、「筋トレをして筋肉を強くする」という発想は一見正しいように思えます。

しかし実際には、すでに過敏になっている神経や筋トーヌスをさらに刺激してしまい、症状を固定化させるリスクがあります。

 

ジストニアとは、筋肉の問題ではなく、脳と神経の誤作動(誤った運動学習)によって起こる「動作の誤認識」です。

 

だからこそ、改善の第一歩は、「もっと動かす」ではなく、「どうすれば力を抜けるか」を脳に再教育していくことです。

 

●筋トーヌスを緩め、小脳を整える

筋肉の張り(筋トーヌス)を緩め、小脳のリズムや協調性を回復させることで、「体が自然に動く」という感覚が少しずつ戻ってくることにつながります。

 

このとき、一次刺激(身体からの信号)と二次刺激(意識からの信号)を組み合わせることで、脳が「この動きはもっとリラックできる」「力を抜いた方がいい」と再び学習していくのです。

 

その結果、
「動こうとすると力が入る」ではなく、「リラックスしても動ける」という新しいパターンが形成されていきます。

 

“再教育”という考え方

ジストニアのケアには、脳が新しい動作パターンを再び学習する“再教育”のプロセスが必要です。

 

その過程では、
・感じ取る
・気づく
・修正する
といった“内的感覚”を丁寧に取り戻していくことが大切です。

 

焦らず、少しずつ、「動かそうとしなくても自然に動ける」状態へと導いていく――
それが、ジストニア改善の本質的なリハビリです。

 

もし今、筋トレやストレッチを続けても改善を感じられない方は、一度「整える方向」へシフトしてみてください。

 

私たちの体には、正しい動きを取り戻すための回復力が備わっています。

 

その力を引き出すためには、「緊張を抜く方法」と「緊張を繰り返さない学習」が必要です。

 

脳と体を整えるリハビリは、誰でも今日から始められますので、まずはやってみてください。

 

行うことで改善の道が開けてきかす。

 

もしそこでうまくいかない、難しいと感じるときは、私にご相談ください。その時は全力でお手伝いします。

 

実際にご来院いただいた方の様子や感想が気になる方は、こちらの記事も併せてお読みください。

【動画複数あり】ジストニアの患者様の症状動画!施術前後の様子など

治った!?フォーカルジストニアにお悩みの方の動画が多数

 

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。