陸上長距離のイップスにお悩みのあなたへ。
この様な症状にお悩みではありませんか?
- 足に力が入らない。または力が入りすぎる。
- 足が自分の足じゃないみたい。
- 足が棒みたい。
- 足が前に出ない。
- 走ると股関節や膝、腰が痛くなる。
ゴルフや野球でイップスとよく言われますが、陸上にもイップスがあります。
また最近は「ぬけぬけ病」とも言われています。
この記事を読む事によって、イップスの原因とメカニズム、克服方法、それから陸上日本代表選手の実際に克服したイップスの例がわかる様になります。
私たちは、陸上日本代表選手、プロゴルファー、1軍プロ野球選手、男子サッカー日本代表選手、バレーボール日本代表選手などのトップアスリートのイップス治療に携わっているイップス治療の専門家です。
この経験を活かしてイップスの情報をシェアすることによって、あなたのイップスが改善される事を心より願っております。
イップスとは?
イップスとは、ウィキペディアで、
イップス (yips) は、精神的な原因などによりスポーツの動作に支障をきたし、突然自分の思い通りのプレー(動き)や意識が出来なくなる症状のことである。本来はゴルフの分野で用いられ始めた言葉だが、現在ではスポーツ全般で使われるようになっている。
引用:ウィキペディア イップス
と書かれています。
ゴルフで用いられた言葉ですが、最近は野球やテニス、卓球でよく使われます。
陸上ではあまり耳にしませんが、実際に短距離、長距離共にイップスに悩む選手がいます。
長距離のイップスはぬけぬけ病と言われている?
最近は、陸上のイップスに「ぬけぬけ病」という名前がつけられています。
走っている時に、足に力が入らない、抜ける様な感じがあるという事から名付けられたのだと思います。
ぬけぬけ病・イップスはジストニアに分類される
ぬけぬけ病やイップスは大きい定義でいうと、ジストニアに分類されます。
(社)日本神経外科学会ではジストニアの事を下記の様に定義しています。
ジストニアという病気は、筋肉の緊張の異常によって様々な不随意運動や肢位、姿勢の異常が生じる状態をいいます。
引用:(社)日本脳神経外科学会 脳神経外科疾患情報ページ ジストニア
ジストニアに沢山の種類があり、その中の職業性ジストニアというものにイップスが含まれ、ゴルフイップス、野球の投球障害、テニス・卓球のイップス、陸上のイップスぬけぬけ病も入ります。
陸上長距離のイップスの原因とメカニズム
陸上長距離のイップスのメカニズムは、簡単にいうと、脳が暴走しているといえます。
走るという条件に対して、脳が過敏に反応してしまい、脳が暴走する事によって、脳がコントロールしている筋肉が上手く働かなくなりイップス症状が出現します。
まとめると、
条件(走る、大会で走る、誰かと走るなどの条件)
↓
脳が過敏に反応する
↓
脳が暴走する
↓
脳から筋肉への命令に異常
↓
足に力が入らない。思う様に動かない。足が棒みたい。というイップス症状が出現
となります。
陸上短距離と陸上長距離のイップス症状に違いはあるのか
陸上短距離のイップス症状をお話するのに、有名な選手を例にあげると、元世界記録保持者アサファパウエル選手です。
アサファパウエル選手は、大きな舞台(世界選手権、オリンピック)でのタイトルがなく、無冠の最速男と言われていました。
本来上半身の軸がブレないアサファパウエル選手ですが、大きな舞台だと上半身にブレが生じてしまいます。
これは、大きな大会という条件に脳が過敏に反応し、脳が暴走する事によって、筋肉への命令に異常が生じ、バランスを崩した状態といえます。
国立スポーツ科学センターの研究では、この時に、モモの前の筋肉(大腿四頭筋)とモモの後ろの筋肉(ハムストリングス)が同時に縮こまってしまう、共収縮していると分析しました。
参考:国立スポーツ化学センター
陸上選手本人が訴える症状、
- 自分の足でないみたい。
- 思うように足が動かない。
- 足に力が入らない。
- 足に力が入りすぎる。
- バランスが保てない。
- 足が棒みたい。
- 本来のタイムが出ない。
- 走れなくなった。
という点では、長距離と短距離のイップスの症状に違いはないと思います。
陸上長距離のイップス克服方法
陸上長距離のイップスの克服の仕方は、条件に対して脳が過敏に反応しない様に脳を適応させることです。
どうすれば良いかというと、なぜ?あなたの脳は勝手に条件に対して過敏に反応するのか?という事を本人が明確に認識する事で適応できます。
過敏に反応する理由として、無意識に脳が学習した価値観(人間が求めるもの)と信念(〜すべき・〜ねばならないという人間がもつルール)の理想と現実のギャップを認識できていない事が挙げられます。
価値観と信念について詳しく説明します。
価値観(人間が求めるもの)
価値観とは、人間が求めるものを表します。
その理想と現実のギャップを認識し、脳が暴走しない様に慣れていく事で脳が過敏に反応しなくするができます。
例を交えながら説明します。
1、存在感・重要感・特別感
承認欲求、認められたいという価値観です。
例:「勝って認められたい。」「選抜に抜擢されたい。」など認められたいという価値観が達成できなかった記憶、現在の状況、未来への予想に脳が反応してしまいイップスに繋がる引き金になる場合があります。
2、つながり・愛情
繋がりたい、愛情を受けたい、愛情を渡したいという価値観です。
例:同じ競技の選手とのつながりや愛情を大切にしている選手は、勝った事で同じ選手が嫌がってしまうと思う認識があると、勝つ事に制限ができます。それがイップスに繋がる引き金になる場合があります。
3、成長
成長したいという価値観です。
例:「もっと速くなりたい。」「もっとタイムを縮めたい。」などの理想(期待)と現実にギャップがあると、脳は過敏に反応し、イップスに繋がる場合があります。
4、貢献
貢献したいという価値観です。
例:「育ててくれた監督やコーチ、親に貢献したい。」という価値観があり、その理想(期待)と現実にギャップのある出来事(過去・現在・未来)に脳が過敏に反応し、イップスに繋がっているケースがあります。
信念(〜すべき・〜ねばならないという人間のルール)
信念とは、「〜すべき」「〜ねばらない」というルールを表します。生まれてから様々な環境下でこの信念を脳は学習していき、年々変化していきます。
長距離のイップスに繋がりやすい信念の理想と現実のギャップを例を交え説明します。
1、自尊心
プライドを持つべき。自分を誇りに思うべき。という信念です。
例:プライドがある事によって、それが達成できなかった記憶や達成できないであろう未来への予想に脳が過敏に反応しイップスに繋がるケースがあります。
2、犠牲心
我慢すべき。自分を犠牲にするべき。という信念です。
例:「本当は、自分の好きなフォームで走りたいのに、監督やコーチに否定され、なおされた。」などがあり、『本当は自分はこうしたい!」という理想と現実のギャップに脳が過敏に反応し、イップスに繋がるケースがあります。
3、警戒心
警戒すべき。警戒しなければならない。という信念です。
例:「試合に負ける事への警戒。」「本来の自分の走りができるのかという警戒」などに脳が過敏に反応する場合があります。
4、執着心
良くも悪くもこだわりを持つべきという信念です。
例:「綺麗なフォームにこだわる」「タイムにこだわる」「勝ちにこだわる」などがあります。こだわりがいけない訳ではありません。しかしイップスに繋がっている場合は、理想(期待)と現実のギャップがある場合です。そのギャップに脳を慣らす必要があります。
5、慈悲心
かわいそうだと思うべき。守ってあげるべき。という信念です。
例:自分に対しての場合、「沢山練習しているのに、勝てない私ってかわいそう」などがありあます。他人に対しての場合、「自分は代表に選べれて、仲の良い友人選手は選ばれなかった。」という事が慈悲心に反応し脳が暴走しイップスに繋がる場合があります。
6、復讐心
納得できない。見返してやりたい。許せない。という信念です。
例:「この前の試合で負けた。絶対に見返してやりたい。」「フォームがきたないと馬鹿にされた。」「コーチの指導方法が納得できない。」「選抜メンバーに選ばれなかった。」などがあります。
7、虚栄心
より良く見せなければならないという信念です。
例:「自分の本来の実力よりも結果を出さなければならない。」という信念によって、脳が過敏に反応し、イップスに繋がる場合があります。
8、猜疑心
疑うべき。という信念です。
例:自分に対しての場合、「本当にこの走り方で良いのかな?」「このペースで大丈夫かな?」という自分に対して疑っている場合と、他人に対してだと、監督やコーチの指導法を疑っていたりしていて脳が暴走しイップスに繋がっている場合があります。
9、団結心
団結すべき。という信念です。
例:「監督やコーチのいう事はちゃんと聞くべき。」などがあります。
10、探究心
探求すべき、追求すべきという信念です。
例:「どうしたらタイムを縮められるか。」「安定したフォームへの追求」「勝つための走り方への追求」「綺麗なフォームへの追求」などがあります。
11、競争心
競争すべき。勝つべき。という信念です。
例:「絶対に負けてはならない。」「自分の走り方、考え方が正しい事を証明したい。」などがあります。この信念はアスリートに多い信念です。信念が自分の目標達成に対してエネルギーになる場合は良いですが、それが達成できない、理想(期待)と現実のギャップがイップスに繋がるケースも多いです。
12、忠誠心・信仰心
こうあるべき。こうするべき。こうでなければならないという信念です。
例:「私は完璧でなければならない。」「競技者として1番でなければならない。」などがあります。これも理想(期待)と現実のギャップがあると、イップスに繋がる選手がいます。
13、自省心
反省すべき。反省しなければならないという信念です。
例:「過去大会に負けたことを反省すべき。」などがあります。
14、羞恥心
恥ずべき。恥ずかしいと思うべき。
例:「勝たないと恥ずかしい。」「変な走り方は恥ずかしい。」などがあります。
陸上長距離日本代表選手がイップス(ぬけぬけ病)を克服した例
「左足に力が入らない。長時間走ると股関節と膝が痛くなる。」という症状を訴える、長距離選手でした。
具体的に検査すると、左の腸腰筋(腰から足にかけての筋肉)が筋力検査で弱化しており、股関節、膝関節周りの筋肉に異常があり、関節の可動域(動かせる幅)が減少していました。
まずは、体から調整する事で可動域は改善しました。しかし、腸腰筋の筋力検査の異常は改善しないために、深い検査を進めていくと、
過去に日本代表に落選した記憶がありました。
この記憶に対するご自身の存在感・重要感・特別感(価値観)の理想と現実のギャップを受け入れる事がどうしても出来ずに、脳は不安定な状態のまま学習し長引くイップス症状に繋がっていたのです。
他に、
執着心:綺麗なフォームへのこだわり。昔はフォームを気にせず走る事ができたが、今はフォームが気になってしまう。その理由は監督・コーチに言われた事、メディアで言われた事が気になったから。
競争心:イップスになる少し前からライバルに勝てなくなった。ライバルに勝てなくなるとその人自身も嫌いになってしまう自分がいる。そんな自分が嫌である。
信仰心:競技者たるもの結果が全てと思っている。その結果に理想と現実のギャップがある。
これらが長引くイップスの原因と認識出来た事で、徐々に脳の過敏反応は安定していきイップスを克服する事が出来ました。
結果が残せない、楽しくなくなった。そんな時にするべき事
競技者は、試合の勝ち負けがつき、勝つ事で評価が得られる世界です。しかし、現在の時間軸だけで捉えると、負けた時に自己否定するしかないかもしれないですが、長い人生の時間軸で考えれば、一つの経験でしかありません。
今負けても、その後の練習によっては勝つかもしれませんし、他の競技に変更し、結果を残すかもしれません。
長い時間軸の一つに過ぎないと思う事で、大概の事を受け入れることができると思います。
自己否定や落ち込み、悲しみを感じる事自体、脳が学習したパターンです。
負ける事によって、落ち込む選手、燃える選手、それぞれ脳が学習したパターンで変わります。
イップスになるのも、ご自身のパターンに入り込んだ結果です。
イップスを抜け出したいのであれば、ご自身のパターンを書き換える必要があります。
どうして、私はイップスになったのか?どうして楽しくないのか?どうして落ち込んでいるのか?
まずはご自身のパターンを認識するところから始めてみましょう。
トップアスリートの結果を残すための習慣と共通点
私たちが沢山のトップアスリートの選手達と接する中で感じた事は、自分を受け入れる勇気を持っている事です。
ご自身のありのままを把握する能力に長けていて、「今何をすべきか。」を常に考え、それを実行すると何年後、自分はどうなっているのかまでを把握しています。
また、自分の目標達成に邪魔する感情をコントロールするスキルを持っています。
これにはご自身を受け入れる勇気があるからこそコントロールできているのだと思います。
体の調整でイップスを克服する方法
脳の暴走を体の調整である程度安定させる事ができますのでご紹介します。
まずは、脳と体の関係性で異常がある部分を検査して特定する事が大切です。
その際に大切になるのが、検査をする時にイップスの症状が出ている時を頭でイメージしながら行う事です。
頭で症状をイメージすると、脳の中で暴走している時の状態を引き出す事ができます。
それでは検査方法と調整方法を説明しますので行ってみましょう。
筋骨格系の調整
腰周辺の検査と調整
体幹(腰部付近)をあらゆる方向へストレッチするようにします。そこで、左右差があったり、筋肉の緊張感、痛み、違和感がある方向は異常です。
その異常の状態で2回深呼吸し調整しましょう。
画像を入れますので動かす方向の参考にしてみてください。画像は左右載せていない場合がありますが、左右どちらも行ってください。
股関節の検査と調整
腰の検査と調整と同じように、股関節をあらゆる方向へストレッチするようにします。そこで、左右差があったり、筋肉の緊張感、痛み、違和感がある方向は異常です。
その異常の状態で2回深呼吸し調整しましょう。
画像を入れますので動かす方向の参考にしてみてください。画像は左右載せていない場合がありますが、左右どちらも行ってください。
※画像にはないですが、股関節屈曲(ももを持ち上げる)と股関節伸展(ももを後ろに持ち上げて反らす)方向もストレッチし、動きが悪い方、違和感や痛みが伴う方は異常ですので、2回深呼吸して調整してください。
膝関節の検査と調整
腰や股関節の検査と調整と同じように、膝関節をあらゆる方向へストレッチするようにします。そこで、左右差があったり、筋肉の緊張感、痛み、違和感がある方向は異常です。
その異常の状態で2回深呼吸し調整しましょう。
膝関節は曲げる、伸ばす、捻るの方向へストレッチし検査してみましょう。
足首の検査と調整
腰や股関節、膝関節の検査と調整と同じように、足首の関節をあらゆる方向へストレッチするようにします。そこで、左右差があったり、筋肉の緊張感、痛み、違和感がある方向は異常です。
その異常の状態で2回深呼吸し調整しましょう。
足首の関節は曲げる、伸ばす、捻るの方向へストレッチし検査してみましょう。
小脳の検査と調整
小脳とは、バランスの調整、頭と眼球の位置の調整、運動のプログラミングの記憶に関係する脳の部分です。
長距離陸上のイップスの方は、この小脳の働きが低下している事が殆どです。
しっかり検査をして調整しましょう。
また、小脳の検査はわざとフラつきなどをおこす試験をします。一人で行うと転倒し怪我する恐れがありますので、誰かと一緒に行いましょう。
片足立ち
片足で立って目を瞑ります。バランスがとれない場合や、フラつきがあると異常です。10〜20秒リハビリし、その後2回深呼吸し調整しましょう。
画像は右足で行っていますが、左足も検査し異常があれば調整しましょう。
前腕回内回外
足を閉じて起立し、手を前に差し出します。そこで高速でバイバイを行ないます。
両手とも遅い場合や、左右に少しでも差がある場合は異常です。10〜20秒程リハビリした後大きく2回深呼吸し調整しましょう。
マン試験
片方の足のつま先にもう片方の足のかかとをつけて一直線上に立ちます。そこで目を瞑り、ふらついた場合は異常です。10〜20秒程リハビリした後大きく2回深呼吸して調整しましょう。
※画像は左足が前で行っていますが、反対も行ない異常があればリハビリして調整しましょう。
前庭器官の検査と調整
前庭器官とは平行感覚などを調整している部分です。
検査は、頭をあらゆる方向へ高速に動かします。違和感や気持ち悪さがある場合は異常です。5〜10秒色々な方向へ高速に動かし、その後大きく2回深呼吸して調整しましょう。
脳神経の検査と調整
脳神経系の中でもイップスに関連しやすい、眼球運動の検査と調整の仕方をお伝えします。
顔を動かさずに、目だけを、右、左、上、下、右上、左上、右下、左下、にそれぞれしっかりとストレッチする様に動かします。
そこで、違和感や行きにくい方向などがあれば異常です。その方向に動かし5秒程維持した後、大きく2回深呼吸して調整しましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
まとめると、長距離イップスは脳が暴走し、筋肉の命令に異常が生じた結果です。
脳が暴走する理由には、価値観や信念の理想と現実のギャップがある、過去の記憶、現在の状況、未来への予想に脳が過敏に反応しているからです。
これは無意識に脳が反応しているので、あえて認識し、脳に慣らす必要があります。
慣れていく事によってイップス症状が改善していきます。
現に、トップアスリートを始め、社会人や学生の選手達も当院へご相談された方々はイップスを克服しています。
克服できた理由は、ご自身の心の構造を理解し、適応力がついたからといえます。
こちらの記事でご自身に向き合い、辛いあなたのイップスが改善できる事を心から願っております。
もし万が一、こちらの記事で向き合っても、イップスが克服できない場合は、脳と体、心と体の関係性に着目した専門家へご相談される事をおすすめします。
最後までお読み頂きありがとうございました。
この記事の参考文献
- ジストニア診療ガイドライン2018:日本神経学会
- ジストニアのすべて:梶 龍兒
- 体の不調は脳がつくり、脳が治す:保井志之
- 「こころ」はいかにして生まれるのか最新脳科学で解き明かす「情動」:櫻井武
- コーピングのやさしい教科書:伊藤絵美
- 記憶と情動の脳科学:ジェームズ・L.マッガウ, 久保田 競, 大石 高生
- イップスの科学:田辺規充
- コーチング・クリニック:ベースボール・マガジン社
- イップス:澤宮優
- イップスは治る:飯島智則
- イップスかもしれないと思ったらまず読む本:河野昭典
- 薬に頼らず家庭で治せる発達障害との付き合い方:Dr.ロバート・メリロ
- 心身条件反射療法研究会資料