仕事でのイップスを克服したいあなたへ。
このようなお悩みを抱えていませんでしょうか。
- プレゼンや上司の前で話すときだけ上手く話せなくなる。
- 初対面の人と話すとき詰まるような感じになる。
- 慣れた人と話すときだけ声が出にくくなる。
- 自分が話そうとすると息苦しくなる。
- 電話対応のときに第一声がでない。
- 電話対応をしていて、だんだん話せなくなっていく。
- 高い声や裏声を意識して出すと上手く出せるが、地声や低い声だど出にくくなる。
- 書類にサインするときなど、字が思うようにかけないときがある。
などでお悩みではないでしょうか。
石井堂クリニカルオフィスは、イップスに特化した治療を行なっており、1軍プロ野球選手、ツアープロゴルファー、男子サッカー日本代表選手、陸上日本代表選手、バレーボール日本代表選手、プロダーツプレイヤー、その他、テニスプレイヤー、卓球選手などのプロスポーツ選手のイップス治療に携わっております。
また、紅白に出場されているアーティストやアニメの声優、職場で上手く話せない、声が詰まる方などの声や喉に関するイップス、いわゆる発声障害などの治療も行なっております。
このような経緯もあり、令和2年に【不調が消え去る脳バランス体操】という本を株式会社KADOKAWAから出版させて頂き、この本でもイップスを克服するための方法を簡易的ですが触れさせて頂いております。
そこでこの記事では仕事イップスの原因やメカニズム、自分でイップスを克服する方法についてお伝えします。
あなたの悩みである仕事イップスが1日でも早く克服できることを心より願っております。
イップスはサラリーマンでもなる
イップスという言葉はスポーツ界で用いられるため普段の生活ではあまり耳にしない言葉だと思います。
なのでイップスについて説明すると以下のようになります。
イップス (yips) は、精神的な原因などによりスポーツの動作に支障をきたし、突然自分の思い通りのプレー(動き)や意識が出来なくなる症状のことである。本来はゴルフの分野で用いられ始めた言葉だが、現在ではスポーツ全般で使われるようになっている。
普段できていた動き(筋肉の正しい収縮)が突然できなくなる現象をイップスと現すことがあります。
なので仕事の場面であっても普段なら問題ないのに、特定の場面になると突然声が出来なくなる現象もイップスと現すことが出来ます。
しかしイップスとは医学的な専門用語ではないため、病院での診断などでは「イップス」という単語は用いられず、「局所性ジストニア」や「職業性ジストニア」、「痙性発声障害」、「痙性書痙」などで診断されます。
ですがジストニアもイップスと同様に、検査をしても明らかな原因がないにも関わらず特手の場面になると症状が出るという病気になります。
なので「イップス≒ジストニア」と場面や状況によって変わるのではないかと私は考えています。
実際に当院へ来院されている方の例では、
- 職場で同僚とは普通に話すことが出来るが、上司や初対面の人になると突然話せなくなる。
- プレゼンや会議など集団の前になると声が出しづらくなったり、声が裏返ってしまう。
- 対人や電話対応のときに「こ、こ、こんにちは」と同じ音を連発してしまったり、「こーんにちは」など言葉が伸びてしまう。
- 電話対応をしていると次第に声が出にくくなってくる。
- 地声で上手く話せすことができないため、高い声を意識して出している。
- 職場の人や取引先など、慣れた人と話すときに上手く話せない。
- 書類にサインしたり、人前で字を書くときだけ手が震えたり上手く書けなくなる。
などがあり、仕事の場面でもイップスは起きています。
仕事で起きるイップスの原因とメカニズム
仕事イップスは何が原因で起きるのでしょうか。
それは脳の誤作動です。
私たちの体は筋肉によって動いています。
その筋肉を動かしている司令塔が脳になります。
今も文字を読むため無意識に目を動かしたり、声を出すときは状況に応じて大きしたり小さくしたり声帯の筋肉を調節し、字を書くときはペンを程よい強さで握り動かしていると思います。
この普段意識しなくても出来る動きは脳が五感(視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚)を通じて情報を感じ取り、筋肉へ適切な命令を出すことで正しく動いています。
しかしここにある条件が加わると脳の働きに誤作動が生じ、この無意識にできていた動きに制限がかかり上手くできなくなります。
その条件とは、
- 大衆を前にしたとき
- 特定の人物を前にしたとき
- 特定の場面のとき
- 特定の音や声を聞いたとき
- 特定の物を持ったとき
など人により条件は異なりますが、この条件はまさにイップスが現れているときになります。
ではなぜある条件になると無意識の動きに制限がかかるのでしょうか。
それには情動が関係しています。
情動とは一時的かつ急激に湧いた感情のことです。
この急激な感情の変化に脳は反射的に体に命令を出します。
例えば、恐怖や驚きを感じたとき呼吸が早くなったり、心臓の鼓動が早くなったり手や足にグッと力が入り身が縮こまるなど無意識に体(筋肉)に命令を出します。
この感情も意識的に起こしているのではなく、心が感じた反応になるため自然と無意識のうちに湧いてくるのもになります。
なので、ある条件になると一過性に感情が湧き上がり脳を刺激することで反射的に体に命令を出し、本来の筋肉を動かす命令が上手く送れず声を出す筋肉に力が入りすぎたり、力が上手く入らないなどの現象が起きます。
これが脳の誤作動になります。
ここまでをまとめると、
ある条件のとき
↓
一過性に湧いた感情が脳を刺激し反射的に体に命令を出す
↓
本来の動きを制限し反射の動きが優先される
↓
いつもの動きができず思うようにできない状態となる=イップス
となります。
これが仕事イップスが起きるメカニズムになります。
そして仕事で起きるイップスはビジネスマンイップスとも言われております。
どのような人がビジネスマンイップスになりやすいのか
ビジネスマンイップスになりやすい人は、
- 真面目
- 完璧を求める
- 周りのことを気にしてしまう
など心柄に共通するものがあると臨床を通じて感じました。
なのでひとつひとつ説明していきます。
何事も真面目に取り組む
- 頼まれた仕事は全て引き受けてしまう。
- 上司やお客さんなどから言われた何気ない一言も真に受けて考えてしまう。
- 些細なミスでも自分を責めてしまう。
何事も真面目に取り組めるのは素晴らしいことです。
ですが真面目すぎることで出来なかったときに自分を責めてしまったり、自分自身に対する甘えを受け入れることができず、「何をしてもだめだ」など事実を偏って捉えてしまう傾向にあります。
このように真面目すぎることがビジネスマンイップスを引き起こしやすくします。
仕事で完璧を求めすぎてしまう
- 中途半端に仕事を終えることができない。
- マニュアル通りでなければならない。
- 目標や理想に近くなければならない。
完璧を求めるのは良いことです。仕事の完成度が高まったり、安心感や信頼に繋がります。
ですが完璧を求めすぎるあまり、いつの間にか自分へのプレーシャーに変わっていたり行動への制限になってしまうことで、理想と現実の自分にギャップが生じ心の問題となりビジネスマンイップスを引き起こしやすくします。
周りのことを気にしてしまう
- 頑張ったのに評価されない。
- 周りの友人や同僚と比べてしまう。
- 失敗して信頼を失いたくない。恥をかきたくない。
周りからどのように思われるか誰しもが気になるところではあります。
しかし周囲の視線や評価ばかり気にしていると本来の自分が表現できなくなり、思うように行動できなくなってしまいビジネスマンイップスを引き起こしやすくなります。
このようにビジネスマンイップスになる方には心柄共通する部分が見受けられます。
しかしどの心柄も悪いわけではありません。
真面目や完璧主義、自分の見え方を意識するのは個性に繋がります。
なのでこのような自分がいると理解し脳へ学習させる必要があります。
学習することで自然と自分自身に余裕が生まれてきます。
次の章でお伝えするビジネスマンイップスの克服方法も客観的に自分を見て、何に自分の脳が反応しているか把握し、脳の誤作動を改善するやり方になりますので、このまま読み進めて頂けたら幸いです。
自分でできるビジネスマンイップスの克服方法
ビジネスマンイップスを克服するためには、
- 脳の誤作動となる感情を特定する。
- その感情を湧かせる心の構造を把握し脳へ学習させる。
- 脳から筋肉へ命令が正しく伝えられているか神経の働きを調整する。
必要があります。
克服する手順を具体的にするため1人のビジネスマンYさんの例を交えながらお伝えしていきます。
脳の誤作動に関係する感情を特定する。
まずはじめにイップスが現れているときの感情を特定します。
この感情は一時的かつ急激に湧くため本来意識的に感じることは少なく、ほとんどが無意識に湧いています。
なのでご自身のイップスが現れている条件のときに、どのような感情が湧いているか自分自身の無意識に意識を向ける必要があります。
ビジネスマンのYさんの例では、職場でプレゼンをするときや取引先の人と話すとき(ある条件のとき)に、声が詰まったりスムーズに話せないという状態でした。
このときにどのような感情が湧いていそうですか?と尋ねると、自分の伝えたいことが伝わっているか【不安(恐怖感)】、仲間と協力して仕事をしたいといった【団結心(連帯感)】がありそうとおっしゃっていました。
このようにご自身の感情を特定してみましょう。
下記にビジネスマンイップスを引き起こす原因になり得る感情を書きましたので参考にしてください。
- 意欲ー頑張る、楽しみ、達成する、積極的
- 義務ーやるべき、しなければいけない、責任、果たすべき
- 期待ー良い結果を望んでいる、可能性、期待
- 喜びー楽しい、嬉しい、満足
- 連帯感ー周りに迷惑をかけてはならない、一体感、団結心、仲間意識
- 優越感ー優れている、出来がいい、嬉しい、
- 恐怖ー恐い、怖い、不安、納得いかない、不満、嫌悪、
- 逃避ー逃げたい、避けたい、近寄りたくない、話したくない、関わりたくない
- 劣等ー他の人より劣っている、過去の自分より出来が悪い
なぜその感情が湧いたか心の構造を把握する
次にイップスが起きているときに、なぜその感情が湧いたのか心の構造を把握します。
心の構造とは、物事の捉え方のことです。
そして物事の捉え方の根底となるのが【価値観】と【信念】になります。
価値観とは、「人間が理屈抜きに求めるのも」「大切にする気持ち」になります。
信念とは、「〜しなければならない」「〜するべき」という自分のルールになります。
この価値観や信念があることで人それぞれ捉え方が変わり湧いてくる感情も違いが出てきます。
なので同じ状況であっても体に不調が出る人と出ない人がいます。
ご自身の捉え方を把握し、意識できるようになることで脳が学習し同じ刺激(イップスを引き起こすある条件)が加わっても反射的に体へ命令を出さなくなります。
先ほどのYさんの例を元に価値観と信念の把握方法をお伝えします。
Yさんがイップスなっているとき【不安】と【団結心】という感情が湧いていました。
この不安という感情を作り出した背景には、自分の能力をもっと理解してもらい会社にとって【重要な人(=価値観)】でありたいという気持ちがありました。
この思いがあることで、みんなに伝わっているか不安になりイップスを引き起こす1つの問題となっていました。
さらに仲間と協力して仕事をしたいという団結心の背景には、【警戒心(=信念)】が関係していました。
自分の能力を認めてもらい会社で重要な人でありたいと求める反面、仕事は協力しないと成功しないという過去の経験から築き上げられたルールがあり、自分の中で矛盾が生じ脳内で誤作動となる感情が生まれイップスになっていました。
このように、ご自身の捉え方を認識し、「こういう捉え方をしてる自分も中にはいて、理想と現実にギャップがあることがイップスと関係していた。」と腑に落ちることが重要です。
そのためにも自分自身を客観的に見る必要があります。
客観的に見るために、この一連の克服方法を実践するときは紙に書き出すことが効果的です。
下記にビジネスマンイップスに繋がる感情の背景となる価値観と信念を書いたので参考にしてみてください。
【価値観】=理屈抜きに求めるもの。大切にする気持ち。
- 安心、安定を求める。
- 刺激や変化を求めて挑戦する。
- 自分の存在価値を大切にし、特別な人、重要な人でありたい。
- 人とのつながりを大切にし愛情を満たしたい。
- さらに成長したい。
- 人や社会に貢献したい。
【信念】=自分のルール。
- 自尊心ー自分に誇りを持つべき、プライドを持つべき。
- 自立心ー自立するべき、頼るべきではない。
- 犠牲心ー犠牲になるべき。我慢するべき。
- 利己心ー自分の利益を優先すべき。
- 警戒心ー気をつけるべき。慎重になるべき、避けるべき。
- 執着心ーこだわりをもつべき。固執しなければならない。
- 慈悲心ー悲しむべき。助けるべき。
- 復讐心ー仕返しをすべき。取り返すべき。反発すべき。
- 虚栄心ー自分を大きく見せるべき。見栄を張らなければならない。
- 猜疑心ー相手を疑うべきだ。自分の考えを疑うべきだ。
- 団結心ーチームで協力すべき。仲間とやるべき。
- 探究心ー追い求めるべき。物事の本質を見極めるべき。
- 競争心ー負けてはならない。勝つべきだ。
- 忠誠心ー尊敬できる人に従うべき。
- 信仰心ー守らなければならない。大切にすべき。
- 自省心ー反省すべき。
- 羞恥心ー恥じるべき。見せるべきではない。
- 同情心ー情けをかけるべき。
脳から筋肉へ命令が正しく伝えられているか検査をし調整する脳バランス体操。
上記の克服方法を実践することでビジネスマンイップスは克服できるはずです。
ですが脳に誤作動が生じたことで脳から筋肉へ命令を伝える神経が正しく機能していない場合があります。
神経は1つのネットワークとして体に存在しているため、一箇所に問題があると全身に影響を与えます。
なので神経の機能に問題が起きていないか検査をし調整する必要があります。
ここでご紹介する調整法は3つあります。
【バイバイテスト】
- まずはじめ両足を揃えてたちます。
- 次に両手を前に出した状態で出来るだけ早くバイバイします。
- このときに両手とも上手くバイバイすることができない、またはどちらかの手が遅い場合は脳の機能が低下していています。
- 脳の機能を安定させるに30秒同じ動きをした後、深呼吸を2回行います。
【片足立ちテスト】
- 転んでも危なくない場所か手すりなど安全をとれる場所で目を瞑り片足立ちになります。
- その状態でフラつきがある場合やバランスがとれないときは脳が機能低下しているサインになります。
- なので10〜20秒ほどふらつきが起きる方の足でリハビリした後、深呼吸を2回します。
【VORテスト】
- まず両足を揃えて立ち、左腕を前方に出し左手の親指を立てます。
- 次に立てた親指を見つめたまま顔を左に振り戻します。これをできるだけ早く行います。
- このときに顔を横に振りながらも目線は左手の親指を離さないように注意して下さい。
- そして右側も同様に行います。
- 以上の動作をした時にスムーズにできない、または目線が指から離れてしまうと脳の機能が低下した状態です。
- 上手くできない側を10回リハビリした後、深呼吸を2回します。
この脳バランス体操はやれば必ず機能改善し安定しますので継続して行ってみてください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
最後にこの記事をまとめると、
-
仕事の環境でもスポーツと同じように特定の条件に対して脳が誤作動を起こすと体の一部が上手く使えないイップスになります。
-
その原因は、特定の条件のときに脳内で一過性に湧いた感情により反射的に筋肉へ命令を出すことで本来の筋肉の動きが制限され引き起こります。
-
ビジネスマンイップスは、真面目な人、仕事で完璧を求めすぎてしまう、周りをきにしてしまう心柄の人がなりやすい傾向になります。
- 克服するためには、イップスのときに湧いている感情を特定し、なぜその感情が湧くかご自身の価値観と信念を把握する必要があります。
- そして価値観と信念の理想と現実のギャップを理解し脳へ学習させます。
- 脳から筋肉へ正しく命令が伝えられているか検査し調整する。
となります。
ビジネスマンイップスを克服するには、自分自身と向き合う必要があります。
イップスの原因はメンタルにあると言われていますので、症状を克服するのも自分次第です。
はじめは慣れず難しいと思いますが、無意識の自分に少しずつ気づきを得ることが克服につながります。
もし万が一こちらの記事を参考に向き合ってもビジネスイップスの改善が難しい場合は、脳と心と体の関係性の専門家にご相談されることをおすすめします。
この記事の参考文献
- SEKI神経学勉強会配布資料
- ジストニア診療ガイドライン2018:日本神経学会
- ジストニアのすべて:梶 龍兒
- 体の不調は脳がつくり、脳が治す:保井志之
- 「こころ」はいかにして生まれるのか最新脳科学で解き明かす「情動」:櫻井武
- コーピングのやさしい教科書:伊藤絵美
- 記憶と情動の脳科学:ジェームズ・L.マッガウ, 久保田 競, 大石 高生
- イップスの科学:田辺規充
- コーチング・クリニック:ベースボール・マガジン社
- イップス:澤宮優
- イップスは治る:飯島智則
- イップスかもしれないと思ったらまず読む本:河野昭典
- 不調が消え去る脳バランス体操:石井克昇
- 薬に頼らず家庭で治せる発達障害との付き合い方:Dr.ロバート・メリロ
- 心身条件反射療法研究会資料